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最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)1075号 判決 1970年6月11日

上告人

株式会社勧業福祉

代理人

菅徳明

被上告人

有限会社川又板金工業

代理人

深田鎮雄

和田敏夫

石橋光一

主文

原判決を破棄する。

本件を東京裁判所に差し戻す。

理由

職権をもつて按ずるに、民事訴訟法上の強制執行にあつては、執行機関は、強制執行をするだけの機関であつて、債務名義さえあれば、その債務名義に表示された実体上の請求権の存否またはその行使自体の違法性の有無(請求権の行使が権利の濫用または信義則違反にあたるか否か等。以下同様とする。)を調査することなく、執行を実施すべきものとされている。したがつて、債務者は、実体上の請求権と一致しない債務名義に基づいて執行を受ける可能性があるから、実体上の請求権の存否またはその行使の違法性の有無について実質的審査を受ける機会を与えられる必要がある。しかし、右の実質的審査を簡易迅速を趣旨とする執行手続内で行なうことは不適当なので、この実質的審査は、執行手続から切り離して、請求異議の訴という通常の判決手続によることとなつている。すなわち、執行手続についての争訟手続と、債務名義の内容である実体上の請求権の存否またはその行使自体の違法性の有無についての争訟手続とは、峻別されているのである。それゆえ、執行手続である取立訴訟においては、債務名義の内容である執行債権の存否またはその行使の違法性の有無を争うことはできないものと解すべきである。しかるに、原判決は、取立訴訟においても、債務名義の内容である執行債権が実体上消滅していることが客観的に明白な場合には、取立権の行使は許されないと判示しているのであつて、その判示が右に説示したところと異なることは、明らかである。

されば、上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、さらに審理を尽させるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(大隅健一郎 入江俊郎 松田二郎 岩田誠)

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